相続法改正:遺産分割前の預貯金払戻制度創設とその実情

相続発生時、従来金融機関にある故人の預貯金口座は遺産分割協議が整うまで凍結されました。しかし実情は相続発生直後のまとまったお金が必要になるため、今年7月から遺産分割前の払戻し制度が創設されました。

法務省のサイト http://www.moj.go.jp/content/001278308.pdf

この制度によりますと、遺産分割協議前に相続人はその法定相続分の3分の1(金融機関毎、上限あり)を故人名義の口座から預貯金を引き出すことができることになりました。

確かに制度創設前よりは残された相続人の便宜を図った制度となりましたが、実情としてはなかなか簡単に利用できる制度ではなさそうです。先日、ある銀行の住宅地域にある支店の支店長さんとお話する機会があり、本制度の利用状況をお聞きしたところ、本制度発足から4ヶ月が経過しましたが、まだ本制度による預貯金払戻請求は1件もないそうです。

払戻し請求を受ける金融機関としましては、まず請求者が故人の法定相続人であること、さらにその請求人の法定相続分の比率を正確に確認できなくてはなりません。そのためには故人の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本の取り寄せ・金融機関への提出が必要となります。そうしますと故人の本籍地や旧本籍地に戸籍(除籍)謄本の取り寄せが必要となります。

葬祭ホールさん主催のの終活セミナーにしばしば登壇させていただいている関係で、いざその時が来てしまった場合の流れをお聞きしていますが、相当あわただしい中で結構な額のキャッシュが必要となるようです。そんな中で死亡届の提出や戸籍(除籍)謄本の取り寄せを冷静に行い、まだ慣れていない金融機関の窓口で制度について説明して払い戻しを受けるのは、相当な手間と時間がかかるとみてよいでしょう。

そうしますと本制度は本制度として理解はしておきながらも、いざというときに相談に乗ってくれたり動いてくれる専門家を確保しておいたり、そもそも本制度に頼らずキャッシュをある程度確保しておくなどの事前準備が必要かと思われます。